「指導しても、なかなか伝わらない…」
「自分の経験が、目の前の人には全く通用しない…」
あなたがもし、指導者として、そんな壁にぶつかった経験があるなら、ぜひこの話を読んでください。
私は、かつて卓球の強豪校で厳しい指導を受けて育ちました。
その経験を活かし、「次は私が与える番だ」と意気込み、地元で子どもの卓球クラブを始めたのです。
しかし、その初日に、私の指導者としての自信と経験が、根底から覆されるような出来事に直面しました。
それは、田舎の小さな小学校の体育館で、ひとりの見学者の少年と出会ったときから始まりました。
「次は私が与える番」のはずが…
長年の卓球経験で培ったものを、今度は地域の子どもたちに伝えたい。
そんな思いで、田舎の小さな小学校の体育館を借りて、私の卓球クラブをスタートさせました。
指導初日。
ひとりの見学者が来てくれました。
6年生のA君。
彼は、これから私が歩む道のり、そして指導者としての私の心を大きく揺さぶることになります。
練習開始。私はすぐに大問題に直面しました。
ラケットに、ボールが当たらない。
最初は「まあ、初めてだし」と許容範囲でした。
しかし、10分、20分、30分が経っても、そして練習終了の1時間後まで、A君のラケットにボールは当たりませんでした。
多球練習で丁寧に球出しをしても、全く当たらない。
指導者としての自信が、ガラガラと崩れた瞬間
強豪校で厳しい練習を積んできた私にとって、これは本当に衝撃的な出来事でした。
正直に言って、こんなにも「ラケットにボールがずっと当たらない人」を見たことがありませんでした。
「どう教えればいいんだ?」
「指導者として、何から伝えればいいんだ?」
自分の経験や技術が全く通用しない現実に直面し、私の頭はかなり悩まされました。
指導者としての自信が、ガラガラと音を立てて崩れていくようでした。
1年かけて掴んだ「感動」
それでも、クラブは続きました。
多球で2回目、3回目と練習を重ねるうちに、A君のラケットにボールが少しずつ当たるようになりました。その小さな一歩一歩が、どれほど大きな進歩だったか。
そして、ラリーになるまで、およそ一年かかりました。
ラリーまでできるようになり私は本当に感動しました。
それは、高校時代にどんな大会で優勝したときよりも、深く、心に響くものでした。
私は、この経験で確信しました。
「これからどんな子どもが来ても、私は絶対に教えられる」と。
指導者としての本当の自信を得ることができたのです。
A君が私にくれた、最高の贈り物
そして、A君が卒業する時。彼は卒業文集に、私宛のメッセージを書いてくれました。
「卓球が本当に楽しかったです。僕はI先生みたいな卓球を教える先生になりたいです。」
その文章を読んだとき、嬉しくて、ちょっと泣きそうになりました。
私がかつて卓球から受け取った「宝物」を、今度は私がこの子に「いい影響」として渡すことができた。その事実に、卓球クラブを始めて本当によかったと、心から思っています。
成功や上達は、華やかな勝利だけではありません。
ラケットにボールが当たる、その一瞬の喜びを分かち合えること。
それが、私にとって最高の喜びです。


